マーライオンに会いたくて
タイの旧正月だったので今週の水曜まで、妻と一緒に石垣島にマンタを見に行っていた。
情勢の緊迫するバンコクへ戻って木金と挟んで土曜日。今日はマレー半島の先っぽまで行って帰ってくる。
スイス航空がバンコク・シンガポールという便を飛ばしていて、しかもなんと、ビジネスクラスが格安。10,700バーツ。この路線、4月26日に運休になるとのことで、慌ただしいが、このタイミングで行ってくることにした。
せっかくだからマーライオンの写真でも撮るかと思ったものの、現地滞在時間が2時間10分しかない。到着したらもう帰路のチェックインである。我ながら酔狂だと思う。
同日に、国際線ビジネスクラスの夕食が2回ある、と言う事実については、ダイエット中である我が身としては少し考えこむ部分ではあるが。
午後3時過ぎの出発だから、お昼過ぎに家を出て夜中前に帰宅のつもりだったのだが、「なんだ、午前中があるじゃないか」と思い至って、せっかくだから、まずは軽くバンコク・チェンマイ往復から。
シンガポール往復を予約した日の前後は、どうも妻に不機嫌にされていたので(おおむね、僕に原因があるのだろうけど…)、なかなか切り出せなかった。
いちおう、「週末、シンガポールでも行く?」と声はかけてみたけど、返答は予想通り。「別に、好きちゃうから」
… … … … … … …
■ 2009年4月18日(土) TG104
09:20/スワンナプーム → 10:30/チェンマイ
サングラスを忘れたものだから、まぶしくってしょうがない。まだ朝の8時過ぎだというのに、家を出てから高速道路を走っているときから、ずっと目を細めてないといけない。目がじりじりちりちり軽く痛む。タイは今、盛夏である。
チェックインカウンターで対応した係員はすごかった。そのカウンターが空いていたので、彼女が携帯で話をしているのを視界に捉えながら歩いていった。もしかしたら通話を切るかもしれない、という淡い希望的予測はもちろんかなわなくて、往路の搭乗券と、僕がオンラインで決済したときのクレジットカードと共に返却。
「帰路も今日便なので発券してもらえますか」と伝えると、会話を休めることなく、それでもすぐにチェンマイ発の搭乗券も出してもらった。
「ありがとうございます」の言葉も、黙礼もなく、僕が立ち去ってもまだ会話が続いていた。
素晴らしい。なかなかの見物だった。
ようやく今日はラウンジへ。それでも10分ほどの滞在だが。
8時に家を出るとき、何も口にしていなかったので、コーヒーとサンドイッチを選ぶ。
伝統衣装をイメージした制服をまとった係員があまりに可愛いので、写真を撮らせてもらった。こういうときは観光客のふりをして英語で話すことで、気恥ずかしさからなんとか逃れようとする。
ボーイング777-200ERのビジネスシートは、新しいものだった。ずいぶんと大きな(20インチくらいか)の液晶モニタが備え付けられている。肘掛けの前方にある2席共用の小物置きのデザインが秀逸だった。
知らない人が隣だと、その領土の分配に悩んだり苛立ったりすることがあるのだけれど、山と谷が一つずつつらなった大きな波の線が左右を分けているので、それぞれの方から見て山になっている部分にグラスとかおしぼりを置けばよい。
離陸すぐの、バンコクの周辺の水田には水が張られはじめている。だが、北上するにつれ田はまだ乾いている。これからなのだろう。稲が緑なす平野も見てみたいものだ。
チェンマイまでの1時間はずっと読書。先日の日本でいろいろ仕入れてきた内の一冊、青木新門「納棺夫日記」
ひたすらに水田の広がる平原を北上し、チェンマイにいたって、その平原の縁のような感じで山並みが現れると空港である。定刻に到着。
エコノミークラスに乗っていた僧侶が3名、まずは優先降機。引き続いて機体前方の席に座っていた我々。
■ 2009年4月18日(土) TG105
11:20/チェンマイ → 12:30/スワンナプーム
携帯電話のスイッチを入れて、妻に一報。
先週の石垣島でのダイビングの際に「タンクの空気がやけに乾いてた」と喉をやられて、この数日ずいぶんなガラガラ声だったのだけど、どうやら少し復活傾向にあるようだった。前回と同じく、「ほんま、なんちゅうか、おもろいわ」という感じの笑いの成分が多分に含まれた声だった。
ターミナルビルの外に出ることなく、出口すぐのエスカレーターで2階。目の前のラウンジへ。グラスに氷を5つほど放り込んで、シンハブランドの炭酸水を注ぐ。
PowerBook G4の充電をしながら、メール確認。ここでも滞在は15分ほど。
行きがTG104便で、帰りがTG105便だから、機体も乗務員も同じだろうな、と思っていたら案の定だった。どう思われてるのだろうという羞恥へ向かう不安は拭い去れないが、「いやいや、自意識過剰な気味がある性格なのだから、他人はそこまで思ってないだろう」という客観的な理解を自分に言い聞かせて、恥ずかしさから逃れようとする。
読んでいた本は、中村航「100回泣くこと」
マイル修行のフライトの時間つぶしだったとしても、あまりにつまらなかった。
■ 2009年4月18日(土) LX182
15:25/スワンナプーム → 18:40/シンガポール
今のタイは真夏である。気温は30度台の後半だが、湿度の高さや、あるいはガラス張りのビルのため日差しが強烈で、ターミナルビル内にいても、薄く汗の膜が全身に張り付く。こういう感じは、嫌いじゃない。東南アジアにいるんだ、と実感する。
チェックインを済ませ、出国すると、見慣れたオブジェ。と言うか、世界の原初をおそらくはヒンドゥー教的に表したモニュメント。アンコールワットにも同じモティーフのレリーフがある。
ラウンジへ。
蘭の花がふんだんにあしらわれている。
どうしたことか、ビール以外の酒がない。リー&ペリンのソースなども用意されているので、ウォッカを含めて一般的なお酒はあるはずなのだが、もしかしたら昼間の時間帯はハードリカーは出さないのだろうか。
カンカン照りの中に並ぶタイ航空機を眺めながら、ライムを多めに絞り込んだレッドアイを飲む。チェックインカウンターやイミグレーションのエリアより少しましだとは言え、ここの気温も高めだ。
ここまで撮影したデジカメ画像を取り込みつつ、修行記録をつける。
また妻に電話をしてみたら、こんなことを聞かれた。
「晩ご飯、どうする?」
「うーん、帰ってから決める、でもいい?」
正直、これから国際線ビジネスクラスの食事が2回あるので、帰宅してから何かを食べることは考えていなかったのだが、若干のバッファを持ってこう答えた。そのバッファとは自分へのものではなく、妻に対して含ませたものだ。
「いらんで」と否定してしまうより良いのではないかとの判断。結婚してみると、特にこういうところに思いが至るようになってくる。いや、正確には、そうしなかったことでむしろロクでもない結果を招いてきた経験から、多少なりとも自分の事情は少し脇に置いた上で発話するようになってきた。人はこれを成長と呼ぶのだろうか。だとしたら、たぶん、遅い成長なのであろう。結婚云々関わらず、相手のことを考えるというのは、人として持っておくべきなのだ。個人的に、身につけるのにずいぶんと時間がかかっているような気がする。
搭乗予定時刻まで1時間を切ったので、満を持して荷物をまとめ、スパへ行く。ファーストとビジネスの乗客は、マッサージが無料で受けられるのだと、ラウンジ入り口の案内にあった。
受付で搭乗券を示し「お願いします」
「申し訳ないのですが、マッサージはタイ航空のお客様限定のサービスとなっておりまして」
すごすごと同じ席へ戻り、レッドアイをもう一杯。
搭乗券に示された搭乗予定時刻の5分ほど前に念のためにと案内のモニタを見たら、なんとしたことか、ファイナルコールが点滅している。慌てて電源コードを抜いて、PowerBook G4をたたんで搭乗口へ。
エアバスA340-300。ビジネスクラスは2+2+2。新しい機体ではないが、さほど古い感じでもない。座席前のポケットに上着をかけるための木製のハンガーが用意されているのが珍しい。
ウェルカムドリンクは、もちろんシャンパンを手に取る。
バンコク発シンガポール経由バンコク行きという乗り継ぎなので、シンガポール入国の必要はないのだが、いちおうの証としてパスポートにスタンプが欲しいので、イミグレーションのカードが配られたときに、記入しておくことにした。
シンガポールでの滞在先には「チャンギ空港」と書こうかとも思ったけれど(事実なのだが)、入国のときに不要なトラブルの種にしてしまうのも面倒なので、ラッフルズ・ホテルとしてみた。
機内アナウンス、何カ国語だろう? 英語、ドイツ語、フランス語、それにもう一つ。ここまでは同一人物の声。もちろんタイ語も入る。だが、ひさびさの非アジア系航空会社。まあ出発地も目的地も東南アジアだが。距離でいくと、ちょうど札幌・福岡くらい。
可愛らしい女性乗務員にタイ語で話しかけられたが、僕が手にしている本が日本語の文庫だったことから、即座に英語に切り替えた。僕も敢えて英語を選択して会話をしていた。ふふ、実はタイ語でもいいのだけどという秘密を心に持ちながらだと、特に好みの感じのタイ人女性相手には少しうきうきする。
ビジネスクラスの一番前の窓際に座っていた。食事が後ろの方から配られていく。「シーフードですか、チキンですか」という声が聞こえたので、シーフードにしようと思って待ちかまえていると、僕への質問はそうではなかった。先ほどのタイ人の女性乗務員がこう声をかけてきた。
「チキンなのですが、よろしいでしょうか?」
「選択肢はありませんか?」
「申し訳ないのですが、先ほどのお客様に最後のシーフードをお出ししてしまいまして……」
僕は肯定的な笑い声を軽くあげ「では、チキンで良いですよ」
ワンプレート。濃い味。永遠にダイエット中の身としては、ビジネスクラスの食事が二つ、と事前にむしろ心配さえしていたが、杞憂であった。
胡椒をたっぷりと振りかけて、その刺激でごまかす。バックパッカーの頃もよくこうやって、美味しくもない機内食をつまみにビールをどんどんお代わりしてた。
大航海時代であれば、ここに腐敗という要因も加わるのに、それを胡椒がかなりの程度何とかしてくれるのだから、それは確かに大海原に出ていくだけのことの意味はあったのだろうと勝手に思いを馳せる。
3回くらい「パンはいかがですか」と回ってきたけど、いずれも「結構です」
スイスビールが救い。二本飲む。デザインもかわいい(ビールを持ってきてくれたのは、エコノミーだと2席占有する必要がありそうなサイズのお尻を持った女性だった)
食後のチョコレートは、パス。
たまたま実家にあった「ジャスミン」に感動したので、辻原登「マノンの肉体」を読む。
イミグレーションで入国手続きを取り、「出発階」というサインを探して一つ上に上がり、並ぶことなくチェックインして搭乗券とラウンジの招待券もらって、出国スタンプ。10分もかかっていないのではないか。
マーライオンに会うどころか、建物から外に出てさえいない。
免税店で今日買うつもりにしている酒の値段を見る。事前にバンコクで下調べは済んでいる。実は、バンコクは到着時でも免税店での買い物ができるので、安い方で買おうと思っていた。
アイスワイン、ボンベイサファイア、ラフロイグのクォーターカスク。値段は、ほぼ同じだが、アイスワイン、イニスキリンの2006年・ゴールド・レゼルブだけが5シンガポールドルほど安いので購入。妻が一度飲んでみたいと言っていたものだ。
■ 2009年4月18日(土) LX183
20:50/シンガポール → 22:20/バンコク
ラウンジにはずっと前から期待をかけていた。スイス航空は自前で持っていないだろうから、必然的に同じスターアライアンスで、しかもチャンギ空港をメインとするシンガポール航空の物が使えるのではないか。サービスには定評のあるシンガポール航空である。何を飲んで何をつまもうか。
だが、招待券に記されたラウンジは、各社の共通ラウンジだった。JALをはじめ、ニューギニア航空、ビーマンバングラデシュ航空、中国南方虚空、エバー航空、トルコ航空、ベトナム航空などなど。
室内の色調やインテリアは海辺の中級のリゾートホテルより少し下くらい。軽食に焼き飯とか焼きそばとか魚のフライなどが並んでいるが、これとてやはり海辺の中級のリゾートホテルより少し下くらいの朝食ブッフェのようでそそられない。飲茶の蒸籠を開けてみたら、饅頭が一種類蒸かされているだけだった。冷蔵庫にキリンラガーがあったことと、冷凍庫にハーゲンダッツがあったのが救いか。アイスクリームは食べないけれど。
シャワーもあるが、あと3時間もせず家だと思うと別によい。
キリンラガー一缶で搭乗口へ。デジャヴ?と思ったが、当たり前である。先ほど出てきたゲートへ戻っただけ。飛行機は同じ所に駐機されている。
好みの感じのタイ人女性乗務員が「またお会いしましたね」とにっこり。
「同じメンバーですか?」
「その通りです!」
シャンパンを配りに来た男性乗務員も「入出国のスタンプを押す時間しかなかったのでは?」
夕食のメニューを持ってきてくれた女性乗務員も、手渡しながら「ウェルカムバック!」
危惧がないわけではなかったが、まさか本当に同じメンバーとは。チューリヒ発バンコク経由シンガポール行き。僕の推測では彼らはシンガポールで一度勤務が終わるものだと。
でも、特にタイ人の乗務員さんの笑顔が可愛いので、すごくうれしい。あはは。でも、名前を聞く勇気はない。
「メインはどうされますか?」
「さっきはチョイスなかったですが、今回は…」という軽い冗談を込めたニュアンスを視線に含ませつつ、「牛はありますか?」
「ありますよ」
「では、それで」
「はい、わかりました」
食事のレベルが行きより少しましになったが、どんぐりの背比べである。合わせるのはスイス産のメルロー。適度に渋みがあって、それでいて軽やかで、すいすい飲めるおいしさがある。丁寧に作られている感じがする。
食事を片づけに来た彼女。
「何かご希望ございますか。コーヒーや紅茶はいかがですか?」
「それは結構です。でも、もしよかったら一つだけ教えてください。あなたのスケジュールはどうなっているのですか? てっきり、チューリヒからバンコク経由でシンガポール、そこでステイだと思っていたのですが。またこの便でお会いして少しびっくりしました」
「確かにチューリヒから来ました。シンガポールまで行って、このフライトでバンコクへ戻っておしまいです」
「バンコクにお住まいなのですか」「ええ、そうです」
着陸直前、優先入国審査レーンの利用券をもらった。これは初めての経験だったが、実際には降りてすぐの入国審査にもほとんど人がいなかったので、使わずじまいだった。
帰宅後、どうしても食事の不満が募っていたので、夜中目前だったが、近所の中華系タイ料理食堂へ妻と出かけた。一皿の空芯菜炒めにもものすごく勢いがあって、こういうのが食事なんだよと、しみじみタイ料理の美味さに感激した。 こってりしたおかずに対比し、さらさらしたタイ米の白粥がよく合う。
僕は今日の報告をする。
「シンガポール往復の乗務員にさ、一人めっちゃ可愛い人がいてん」
「ほほお。それはよかったやん。ぜひ次はその彼女と一緒にチューリヒ行って来たらええんとちゃう。もちろん、片道切符でな!」
… … … … … … …
(注)前回と今回の修行の間に、ANA利用でのバンコク→成田//羽田→那覇→石垣→那覇→成田→バンコクというフライトがあったが、これら旅行やあるいは出張の類はプラチナポイントの積算には取り込むが、修行費用としては勘案しない。
★プラチナポイント
これまで | 今 回 | 合 計 | プラチナまで |
18,732 | 4,733 | 23,466 | 26,534 |
★修行費用(タイバーツ)
これまで | 今 回 | 合 計 |
18,330 | 21,180 | 39,510 |
★修行PP単価(タイバーツ)
これまで | 今 回 | 累 積 |
4.05 | 4.47 | 4.27 |
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