朝、髭を剃りながら自分の顔を眺めて、随分と色が白くなったことに気付いた。そう言えば、足の甲に常に張り付いていたサンダルの日焼けの跡もいつのまにかさっぱりとしている。
電車待ちのホームで空を見上げたら、薄い水色の冬空をジャンボジェットが上昇していた。
旅に出る時だ。
来月のカレンダーを見ると、3連休がある。時期的に仕事も一段落する辺りだ。前後に一日ずつの有給休暇をくっつけてどこかへ出よう。
どこへ行こうかという問いに対して、実際問題として解答は限定されている。近場で便利のよいところ。やはりまず最初に頭に浮かんだのはバンコクだった。とりあえず旅行代理店に連絡をとってみたところ、どの航空会社のどの便も満席。便によっては20人以上のキャンセル待ちだった。連休の予約状況というものをまったく勘案していなかた。いや、そもそも考えに入れようなどということすら思いつかなかったのだ。これまでの旅行では連休も繁忙期も、まったく我関せずだったので、そんなシビアだとは考えてもみなかった。
これまでの学生の旅行とはわけが違うのだと現実を突きつけられた最初のできごとだった。(なお、今回の旅は実際には社会人になって二度目の旅行である。10月の連休に友達と連れだってグァムへダイビングをしに出かけている。ただ、それはツアーであったりリゾートであったりダイビング以外全く何をしていないこともあったりといった理由から一回の「旅」としてはカウントされない)
代替案として香港を考えてみた。これまで訪れた中で、バンコクに次いで好きな都市。しかし、これも状況は似たり寄ったり。キャセイパシフィックで非常に不便な時間の便はあったのだが、あまりにも現地滞在が短すぎて現実味に欠ける。
電話の向こうで旅行会社の人が言う「全日空で香港行き、前売り21なら一席だけ残っています」。決めた。値段が7万5千円しようとも構わない。とにかくここらで一度外の空気を吸っておかないと、色々なものが身体にたまっているし、そして必要不可欠なものはすっぽりと欠落している。
前売り21というのはペックス運賃の一種で、出発の21日前までに購入すれば正規の割引料金で購入できる航空券のことである。これまでは千円でも安い格安航空券だけを求めていたから詳しくは知らなかったのだが。
香港ではとにもかくにもスターフェリーに乗って、海の上でサンミゲルを飲む。そして香港島の夜景を眺めよう。
それでもちょっとした悪あがきをした。タイ航空に直接電話をかけて、やはりこちらにもある前売り21の席をリクエストしたのだ。その際、自分はマイレージクラブのシルバー会員であることを伝えてウェイティングリストに名前を載せてもらう。
21日前の数え方の違いから、全日空の方がデッドラインが一日早かった。さて、その日の昼過ぎになって、お金を振り込もうか思ったのだが、その前にとりあえずタイ航空の状況を確認する。まったく期待してはいなかったのだが「帰国便はとれました」とのこと。
旅行代理店の担当者に状況を説明し、万一の場合振り込みを明日まで待ってもらう了解をとりつけた。タイ航空の方はあと一日半の余裕はあるのだが、香港をふったはいいがバンコクの片道しかないというのはあまりにもどうしようもないので、僕としてはタイ航空のオフィスが閉まる今日の5時が最終地点だった。
もちろんタイ航空の方は「明日までお待ちいただけるので……」ということだったが、そこは「いや、今日とれなかったらいいです」
5時直前に再びタイ航空へ。「行きはマニラ経由になりますが、OK出てます」との返事。「ひゃっほう!」と声を上げたかったけれど、会社の公衆電話からなのでさすがにはばかられた。
このスケジュールでいくと、2/10日の午後4時半にバンコク到着。帰りは14日の午前8時半に出発。実質的にはタイにいられれるのは3日半くらい。
さて、タイへ飛べることは決まった。それではどこで何をするかだ。バンコクで会いたい人もいるし、やりたいこともある。少なくとも最終日一日はバンコク。あとは移動にそれほど時間がかからないところ、それにできれば海がよい。ということで、パタヤに決めた。バンコクからバスで2時間半ほど、それにリゾート地らしいからダイビングのツアーも毎日あるだろう。
初日は空港からエカマイ(東バスターミナル)へ出てとにかくパタヤへ入る。翌日はダイビングをして、3日目の昼過ぎまでは海でのんびりと。夕方くらいにバンコクへ出発。向こうの知り合いに会って酒を酌み交わそう。最終日はあれこれと買い物(複数の友達からいろいろと頼まれものも引き受けていた)。
これだけ予定を立てると、とにもかくにも真冬の関空から熱帯へ向かった。