パリ濃厚観光

 さあ、パリ観光の初日である。まずはとにかく歩いてみることで、地図上で見た感じと実際の感覚を一致させて、一つの自分なりのこの街の縮尺を作ってみる。今日の最初の目的はルーヴル美術館とした。3km少々なのでちょうどよい。
 日本の秋空からもの悲しさをすっきりと抜き取ったような、真っ青で晴れやかな澄んだ空気のパリの夏の朝。
アレクサンドル3世橋
 エッフェル塔近くの宿から、アルマ橋を渡り、セーヌ川沿いの遊歩道。アレクサンドル3世橋の向こうにナポレオンが眠るアンヴァリッドが見える。橋のデザインはごつくて派手だ。
オベリスク
コンコルド広場へ至って、オベリスクを見上げる。
 僕は、旅先で歩くことというのはかなり慣れているつもりだが、妻は根っからの車人間である。これくらいの距離はだいじょうぶだろうと思ってはいたけれど、途中にちょっとお楽しみを考えたルートとした。
 チュイルリー公園の脇、目指すルーブルはすぐ目の前だけど、モンブランとショコラが有名だというアンジェリーナという店へ立ち寄る。不機嫌さが妻の表情に表れてきているので、良いタイミングだった。
 妻はとりどりのマカロンに大騒ぎだ。
 「いやー、朝からこんなに歩かされてどないしたろかと思ってたけど、この店に連れてきてくれたことで許したるわ」
アンジェリーナ
 さあ、それではさっそくとフォークを手に。
 二人共通の感想は、「甘い…」
 舌を刺すほどに甘い。口の中のあらゆる場所へ糖分が入り込んでいく。飲み込んだら、胃袋にどっと重たくたまる。
 「あたし、チョコレートとか甘いものには目がないと思ってたけど、ゴメン、このショコラは飲みきられへん」
 さて、ルーブル美術館。ナポレオンの居室はまた、先ほどのアンジェリーナと同様、これでもかと装飾が激しい。赤や金が基調で、大きなシャンデリアがつり下がり、ご丁寧に天井にもこってりした天使の絵が描かれている。
ナポレオンの部屋
 「この家に住まわせてあげると言われても、いらんな……」
 4時間以上費やして、とにもかくにも八割方は歩いた。鑑賞したというよりは、歩いた。朝の糖分があるから、お昼時になってもお腹が減らなかったどころか、もちょっと歩いて消化しないとどうにも重みが取れなかった。パリ・ミュージアム・パスを買っておいたので、まあ滞在中にまた来てみてもよいや、と思ってもいた。
 サモトラのニケとか、ミロのヴィーナスとか、モナリザとか、ハムラビ法典とか、世界史で習ったものは実物を見た。そもそも素養が世界史の教科書程度なので、あまり感慨もないというのが正直なところ。
 地下鉄でバスティーユ駅まで出て、ムール貝専門のファーストフード寄りのレストランで軽めの昼食。白ビールをジョッキに一杯。大鍋で蒸し上げた貝は、目を見張るほどではないけれど、思った程度に美味しい。
蒸しムール貝
 続いてサンルイ島。小さいながら洒落て整った感じのお店が並んで、雰囲気の良い場所だ。心の有り様が、おさまりの良い場所にほっと一段落する。
 妻はアイスクリームを買ってなめている。つい今朝方、甘い物は当分見たくないと、言ってなかったか。
サンルイ島
 シテ島に渡ってノートルダム大聖堂。行列が激しかったので外から眺めるだけ。ごついなぁ、どっしりしてるなぁ、という程度しか感想が出てこない。
ノートルダム大聖堂
 観光は続く。セーヌ川の遊覧ボートでぐるりとめぐる。
エッフェル塔
 船員の制服を着たガイドのお姉さんがちょっと可愛かったことも印象的だったが、それより何より、川縁にたたずむカップルでキスを交わす人たちの実に多いこと! 立ち止まってチュパチュパ、橋の欄干に寄りかかってチュパチュパ、ベンチに座ってチュパチュパ、ベンチに座った男性に女性が座ってひしっと抱き合った上でブチュッ。
 語られる由来とともに次々迫る観光名所を写真に収めるよりも、僕ら二人して「ほら、あそこ!」としまいにはキスするカップルへ向けてシャッターを切ってばかりだった。
 パリの人はキスが好きなのか、あるいは人はパリへ来たらキスをしたくなるのか。
 夜は宿の近くのちょいとよさげなビストロへ。よさげと言ったところで、宿から近いことに加えて、ガイドブックにある「コストパフォーマンス最高」という文句が決め手だったのだけど。
 「結婚4ヶ月目完了(3/15が結婚した日。今日は8/14)」というよく分からない理由をつけて、シャンパンを一本。
夕食
 雰囲気や店員の接客態度は好感が持てたし、味も悪くはないけれど、思い描いていた「パリで食するフランス料理」というのには届かない。期待が過大なのか。いや、まあ、観光ガイドブックら選んだお店だからなんだろうな、と思う。
 ホテルへの帰り道に並んだ建物の向こうから、ちょうどシャンパンフラッシュで光るエッフェル塔を見た。


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