そして、コペンハーゲン
2008年8月17日
スカンジナビア航空1569便 |
18:00 |
パリ(シャルルドゴール) |
→ |
19:50 |
コペンハーゲン | |
目覚めれば城である。優雅なものでもなく、これは酒をたっぷり飲んだ翌日の目覚め方だった。しまった、風呂に入ってないまま、二人とも眠ってしまった。
浴槽にお湯を張って、ジャグジーで朝から気怠く過ごそう。ところが浴室に入って驚いた。栓が閉まらない。急いで電話をして人を呼ぶが、来てくれたおばちゃんは英語が通じない。でも現場を見せたら問題は分かってくれたようだ。
待てども戻ってこない。シャワーだけ浴びて朝食に下りることにするが、電話で再度やっといてくれ、と頼んでおく。
朝ご飯もとりたててどうということもなく。部屋に戻っても風呂場はそのまま。交換の部品が今ないから、ということらしい。
城の宿泊も当然として、ここを選んだ一つはジャグジーだったので、極めて残念だ。これが安いホテルであれば、チェックインのときに設備の確認を自分でやることは習慣なのだが。
フロントに行ってクレームをつける。「どういうことなのだ」と。
途中から上司が出てきた。申し訳ないができないものはできない、と言う。
こういう揉め事のときの妻の対応は実に見事なものだ。英語も分からないふりをして素知らぬ感じで僕の後ろに立っている。「面倒なことはよろしくね」という体で、全部こちらに任せっきり。
上司が僕らの部屋の請求書をプリントアウトさせて、「お詫びに昨夜お召し上がりになったシャンパンを一本、ホテルからのサービスとさせていただきたい」
「こんなん言うてるけど、どする?」とタイ語で聞くと、「もちょっとがんばれ」と言う。
僕は再度向き直って交渉を続ける。
「私の妻に状況を説明しましたが、せっかくの新婚旅行なのに悲しい思いをしたのをシャンパン一本だけとはどういうことかと納得しておりません。もう少し対応を考えてはいただけないでしょうか」
粘り勝ちか向こうの根負けか、あるいはこれ以上ややこしいことに関わってる暇なんかないのだという判断か、結局昨夜飲んだシャンパンが2本ともサービスとなった。
喜ばしくはあるのだが、昨日シャンパンを頼んだときには「せっかくの旅行でしかも豪華な城にいるのだから、お金とはこういうときにこそ使うべきだ」という前向きに明るい決心があったのに、それがこういう結果になったことは、やはり残念な面があることは拭いきれない。
さて、今日のフライトは午後6時。たっぷり半日をこのシャンティイでどう過ごすか。とは言え、シャンティイ城と馬の博物館という二個所くらいしかないので、ともかく両方へ足を運んでみる。そもそも、ホテルのウェブから直接予約したが、選んだプログラムにはこの馬博物館の入館料が含まれている。
少し距離があるので、ホテルの自転車を借りる。妻は車人間なので、自転車に慣れがない。乗ったことはあるけれど、というレベルなのでよたよたしながら走っている。交通量があるわけでもないのが幸いだ。
森の中の小道を通り抜ける。途中で上着を脱ぐほどに身体が温まる。曇り空なのは残念だが、これで日差しがあればもっと汗をかくことになったのだろう。森を抜けると、競馬場を沿うように走って博物館到着。この競馬場はフランス最古のもの。レースの中にはエルメスがスポンサーのものもあるという。
フロントでのジャグジーとシャンパンをめぐる交渉に時間がかかったため、狙っていた馬の調教のショータイムには間に合わなかった。それでも、実際の馬が飼育されていたり、昔の馬具の展示があったり、それなりに見るものがある。馬具商から起こったエルメスの展示品もある。
僕らの少し先を老夫妻が見学していて、ずっと寄り添って歩いていた。妻はその後ろ姿を見て「ああいう風になりたいものよね」と言い「あんたがもっと努力しいや」と付け加える。
隣接するシャンティイ城へ。床から天井までの書棚が部屋の三方を囲む豪華な図書室や、絵画が壁一面に転じされた部屋、また中には顔がついたライオンの毛皮がぶら下がっていたりもする。
率直に言うと、この2施設ともに個人的にはあまり期待をしていなかったのだが、両方とも静かでありながら温かみのある空間で、ルーブルのような威圧感や商業感もなく、のんびりひっそりと訪れる我々を歓迎してもらった気分になれた。朝のトラブルが引き起こしたもやもやした気持ちも、心地よいサイクリングと、のんびりした見物のおかげで、すっかりと解消された。
ホテルに戻るころには日差しが出ていて、城全体を覆う緑や、そこかしこに植えられている花々が生彩を放っていた。
空港へ向かうのは、今度は普通の車。一泊二日は文字通りにあっと言う間だったが、これ以上長くいてもちょっとしんどかったのではないかと思う。あくまでパリ観光のおまけとして、ちょっと郊外まで遠足に来たという感じだ。食事が美味しくなかったこと、ジャグジーが使えなかったことは残念だが、逆に城や博物館が心地よかったこと、森を抜けるサイクリングが快適だったこと、何より妻を驚かせることができたことなど、足し引きすればプラスの要素の方が多かったように思う。
僕らが乗るスカンジナビア航空はターミナル1だが、時間に余裕があるので、電車に乗ってターミナル2まで足を伸ばしてみる。1の方が改修工事が進んでいて、特に見るべきものもなかったのも理由だ。新しい2のまで出れば、それなりに買い物などで時間がつぶせるのではないかと思ったのだが、さほどでもなかった。
結局、ターミナル1に戻り、薄暗い地下のカフェテリアでサラダとビール。夕方だが、これが今日の昼食。搭乗口手前の免税店でシャンパンの小瓶を2本買って(最初にベルゲンの免税で買ったのと同じPOP)、「じゃね、フランス!」と二人で乾杯。妻はマキシムのチョコレートを買っていた。
コペンハーゲン行きのこの便は通常のエコノミーの方なので、アルコールは有料。話の種に、ツボルグを一缶。30デンマーククローネ。500円と少々。
「支払いは極力クレジットカードでお願いします」という事前のアナウンスに従いカードを切る。
妻は慣れない自転車のせいか、横の席でくったりと眠っている。
飛行機は、ブリュッセル、アムステルダムのあたりを通過しながら北上する。
コペンハーゲン。4回目にして、ようやくこの空港が目的地。しかし到着したものの、すぐには外に出ない。
ベルゲンでのフィヨルドツアーの翌日には、妹とその友人たちはダブリンへ向けて旅立っていったのだが、偶然にもちょうどその帰路で、妹とここコペンハーゲン空港で再開する時間があった。彼女の乗り継ぎ時間がせまっていたので、出会ったものの「やあ」「ほなまた」だけではあったが。
タクシーでホテルまで向かう。闇になる直前の深みのある青い空だ。静謐な感じがする。パリとは違うと、この街に着いてまだ何もしていないけれど好感を持てた。
フェニックスホテル。最後なので、ここは一つ贅沢な選択。創業150年を超える「白亜の外観が目を引く、格式と伝統を持つ高級ホテル」と「歩き方」にある。落ち着いた白が基調の部屋は、広さも余裕があって、調度品の雰囲気もよい。
荷物だけ置いたら、さっそくに繰り出す。海につながる運河沿いにレストランが集まっているニューハウン。車の行き来はあるものの、全体的にしんとしていて、それでいて冷たい感じがするわけでは決してない。僕のこれまでの経験からしても、あるいはそれは直前のフランスにあまり好印象を持たなかったからかもしれないが、この街はよい街だという判断になった。
歩いて10分ほどで目的地。店々に灯がともり、人が集っている。この街の予感に胸が高鳴る。妻はいきなり目に付いたアイスクリーム屋へ入って、ワッフルにアイスクリームを乗せた物を注文し、満面の笑みを浮かべている。
店のあるエリアをぐるっと一往復し、雰囲気のよさげな一軒を選んで屋外の席に座る。僕はツボルグ・クラッシックを、妻はハウスワインの赤を一杯。
我々の新婚旅行、最後の街の滞在が始まった。ここに後2泊。そして飛行機でのもう一泊が残っている。
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